開発者の声

「“言葉がハッキリしない”悩みを解決したい!」 ~SSSの誕生~

開発部 中市健志

2000年、リオン開発部の中市健志は感音難聴の要因の一つである周波数選択性の低下に着目し開発に乗り出した。
世界中探してもまだこの周波数選択性の低下に対応する補聴技術は開発されておらず、もちろんそれを搭載した補聴器も存在しない。「リオンだからできること、リオンにしかできないことをするんだ!」という意気込みを掲げ研究がスタートし、2009年世界初の機能としてSSS(サウンド・スペクトル・シェイピング)がリオネット補聴器へ搭載された。
SSS Speech+の原点がここにあった。

まず、研究を始めたきっかけはなんですか?

難聴は一般的に小さい音が聞こえなくなることが知られています。しかし、小さい音が聞こえないからといって、音を大きく(以前聞こえていた小さい音が聞こえる程度)しただけでは効果がないことや、聞こえを取り戻せないことを知り、その原因は何か?と興味が沸きました。難聴になると小さい音が聞こえなくなる以外に、音を聞きわける能力(周波数選択性、時間分解能)が低下すること、音の大きさを知覚する感覚が変わってしまうこと(補充現象)が知られています。そのなかで、周波数選択性について調べ始めたのがきっかけです。

聴覚の世界では当たり前のように飛び交っている言葉ですが、そもそも周波数選択性の低下とはどういうものですか?それが起こるとどういった現象がおきるのでしょうか?

内耳は音(空気振動)を神経が発火する電気信号に変換する重要な役割を担っています。その変換の際に、音の高さによって電気信号に変換する場所が異なり、それぞれの場所とつながっている神経が発火して脳へ信号を送っています。難聴になると、内耳のある場所で本来送りたい特定の音の高さ以外の信号を電気変換してしまい、余計な情報が神経に伝わってしまいます。結果、雑音下における言葉がはっきり聞き取れないといった現象が起こると言われています。

なるほど・・それで言葉がハッキリしないという現象が起こるのですね。15年という長きにわたる研究を続けられたわけですが、やはり一筋縄ではいかなかったこともあるのではないでしょうか?

雑音下での言葉がはっきりしない、という現象は事実なのですが、その理由や、はっきりしない程度の数値化という調査の過程がその15年間に含まれていますので、周波数選択性の低下の度合をいかに把握するのか?という補聴器開発以外のところに大きく時間を費やしました。
さらにSSS Speech+は、これまで行われていた周波数選択性を測定し、その結果をもとにSSS Speech+の調整を行う方式に加え、試聴を行いながら効果を体験していただくプログラムをご用意しました。いかに短時間でお客様にご負担なく調整できるかに力を注いだのです。開発と検証を繰り返し続けた軌跡こそが大事な過程であって、リオン独自の補聴システムが完成したと感じています。

これだけでは語れない15年間ですね。実用化にこぎつけたのはやはり第一にお客様の声だったと思います。リオンは直営店を持つ補聴器メーカーですが、その強みは発揮されましたか?

直接お客様と接してお声をいただけることが強みになりました。もちろん、周波数選択性の低下は感音難聴の要因の中の一つですので、周波数選択性の低下が起こっていない感音難聴の方は残念ながら適応外となりました。しかし、感音難聴で適合されたお客様からは今回バージョンアップを果たしたSSS Speech+は今までのSSSよりもはっきり聞こえると言った声を頂いています。私たち開発者がお客様の声を直接聞ける環境が存在することは、とても大事だと思います。

ズバリ!SSSの恩恵とは?

人はおもに、音声によるコミュニケーションに不都合を感じた時に補聴器を必要とします。つまり、「コミュニケーション=会話」と考えます。雑音下での会話においては雑音を抑えることも重要ですが、音声の特徴を強調することも重要な課題となります。音声は母音と子音の組み合わせでできていますが、日本語を含め多くの言語の聞き取りに母音は重要な役割を果たしています。リオンが開発したSSS Speech+は子音だけでなく、母音もはっきり際立たせることができる機能です。
ですから、言葉がはっきりしないという方にSSS Speech+が搭載された補聴器を是非お試しいただきたいです。

今回、その研究成果を同じく開発部の森本隆司が加速させました。母音成分にもその制御を拡大し、より効果的なSSSを世に送り出したことになります。是非お客様にSSS開発者からの声を届けてください。

我々開発スタッフは常に補聴器は人と人をつなぐコミュニケーションツールであると意識しながら開発に携わっております。補聴器を装用することによって、鳥のさえずり等自然界に存在する音の素晴らしさを再認識できるうれしさもありますが、言葉の聞き取りを補うことが補聴器の主たる役目であり、この言葉の聞き取りに関する技術開発に我々は注力しております。気が付けばSSSを開発してから6年の歳月が過ぎましたが、今回もまた満足できる商品を再びご提供できることになったのはこの上ない喜びです。リオネット補聴器をご使用いただくことによって、お客様一人ひとりの大切な人生がより素晴らしいものとなるように願っております。

母音帯域までSSS適応が実現! ~開発コードネーム“for J”~

開発部 森本隆司

中市健志によって行われた周波数選択性の低下に対応する補聴技術をリオネット補聴器に採用したと同時に、新たな開発がスタートしていた。
開発コードネーム “for J” 。
JはJapaneseのJを表し、社内では「フォー・ジェイ(日本語のための)」という言葉が飛び交い開発陣の士気は高まっていた。
日本語の母音成分へその制御を拡大することで新たな聞こえの獲得が実現するのではないだろうか?研究の集大成に向け中市健志が新たなプロジェクトリーダーに指名したのが森本隆司だった。

一度成功したプロジェクトを引き継ぎ加速させることを義務付けられたわけですが、プレッシャーなどはありましたか?

プレッシャーですか? 
それはありませんでした。逆に「お客様のより良い聞こえのため頑張りたい!」という思いのほうが強かったのを覚えています。初めて話を聞いたときに、なぜ今までのSSSは制御帯域を750Hz以上にしか対応させていなかったのだろう?という疑問がありました。
「周波数選択性の低下度合いを全周波数で測定することはできないだろうか?」と生意気ながら思っていました(笑)
しかし当時はそれを行うと測定時間が長くなり、補聴器フィッティングに要する時間が追加されてしまう背景があったことを後で知りました。
今回SSSという技術を音声の全周波数成分に適応することと同時に、補聴器フィッティングに要する時間の短縮化という両面において挑戦することになったわけです。

今回は母音にまでその制御帯域を拡大したわけですが、開発において最も苦労したポイントは何でしたか?

それは、効果の確認でした。私たちの取り組みは、試作・検証して得られた効果からまた試作しての繰り返しによって機能の開発を行います。今回の改良では、難聴の方への聴取実験はもちろんのこと、客観的な評価として、聴覚の機能の一つである蝸牛(かぎゅう)のシミュレーションや、音声の品質を予測する指標などを用いて評価を行いました。長い開発と検証の期間でしたがモニター調査によるお客様からの喜びの声を頂いたときには今までの苦労も吹き飛びました。

日本語を形成する子音と母音でSSS Speech+は動作します。日本語ならではの聞き取りのポイントとその動作について詳しくお聞かせ下さい。

音声を構成する音素には様々な特徴があり、それらの特徴を知覚することで言葉を理解しているのだと考えられています。これらの特徴は、時間的な特徴、周波数的な特徴など様々ですが、周波数選択性が低下すると、周波数的な特徴、それも各周波数帯域成分の強弱による特徴を正しく把握できなくなる可能性が考えられています。
今回注目した母音の特徴とは、フォルマントと基本周波数になります。フォルマントは、周波数の低い方から第一フォルマント(F1)、第二フォルマント(F2)、第三フォルマント(F3)、と呼ばれています。母音は、F1、F2の分布で分類できるとも言われており、これらF1, F2を強調することが「はっきり聞こえる」ことに重要だと考えています。
そのためSSS Speech+では、よりF1, F2の周波数範囲全てをカバーし、加えてこの周波数範囲をより強調できるように改良を加えました。
その結果、処理を行わない音声と比較すると、SSS Speech+の処理を行った方が音声がはっきり聞こえる、とのモニター結果が得られたことから今回の製品化に繋がりました。

周波数選択性の低下に対応する補聴技術は日本語のみならず世界を代表する技術といっても過言ではないと感じますがいかがでしょうか?

ご存じのとおり、難聴になると音が小さく聞こえるだけではなく、リクルートメント現象(補充現象)や、周波数選択性の低下、時間分解能の低下などが認められる方が数多くいらっしゃいます。その中の一つである周波数選択性の度合を補聴器で測定することができ、その結果を機能に反映できるものはリオネットだけだと思います。

SSS Speech+とは?